第1から第3(警察刷新に関する緊急提言)

第1 問題の所在と刷新の方向性

今日の警察の不祥事の問題点や原因を探り、解決の方向性と処方箋を考えるには、まず、我が国の警察の持つ問題点を解明しなければならない。

1 閉鎖性の危惧

  1. 犯罪捜査の秘匿性を強調するあまり、警察行政が閉鎖的になるとともに、本来公開すべき情報が公開されないおそれがある。
  2. 組織内部の過度の身内意識は許されないにもかかわらず、馴れ合いによって、監察が十分な機能を果たしていないとみられる。
  3. 公安委員会は、警察行政の民主的運営を保障し、政治権力からの中立性を確保するため警察を管理する役割を担っているが、国民の良識の代表として警察の運営を管理する機能が十分には果たされていない。

2 国民の批判や意見を受けにくい体質

  1. 警察に個々の国民が直言することはたやすいことではないため、不適切な対応があった場合にも警察への批判が起こりにくく、また、それをチェックするシステムも十分ではない。
  2. 「民事不介入」についての誤った考え方を払拭しないまま、逆にこれを言い逃れにして、国民の要望・意見等を真剣に受け止め必要な捜査、保護等を行わない事例が目立つ。
  3. 警察では組織的対応が強調されるあまり、職務執行に伴う警察職員個々の責任が問われず、「匿名性」に隠れて緊張感を欠く職務執行を生み出している。
  4. 地域社会が著しい変容を遂げ、住民の身近な安全に関する要望・意見等も多様化しているにもかかわらず、警察はそれを敏感に受け止めていない。

3 時代の変化への対応能力の不足

  1. 警察のいわゆるキャリアには、現場経験を積む機会が十分に確保されておらず、また、一部には国家と国民に献身するとの高い志と責任感に欠ける者が見受けられる。
  2. 第一線の各級幹部にはその役割に応じた正確な知識と判断力、指導能力、旺盛な責任感が求められ、また、高い職務倫理や廉潔性が必要であるにもかかわらず、これらの者に対する教育訓練が質的にも量的にも不十分である。
  3. 近年、110番受理件数、交通事故件数等が急増しており、交番勤務員はこれらへの対応に追われている。このため、パトロールや巡回連絡等を十分に行えず、また、多数の空き交番が生じるなど、住民の身近な不安を解消する機能が低下しつつある。
  4. ハイテク犯罪やサイバーテロ、国際組織犯罪等専門的知識や技能が必要とされる事件に対応するための人材や体制が十分に確保されているとは言えない。さらに、ストーカー事案、家庭内暴力、児童虐待等の事象への取組み、被害者対策の充実も含めて従来の警察体制で対処することが困難な分野が生じている。

4 刷新の方向性

以上、警察が抱える問題を改めるために、次の処方箋を提示する。

  1. 透明性の確保と適切な是正措置のための方策
    • 国民の目に見える警察とするため情報公開の積極的な推進
    • 警察職員の不適切な職務執行に対する苦情申出制度の創設
    • 警察における監察の強化
    • 公安委員会に期待されている警察への「管理」機能の見直し、管理能力の強化など、公安委員会の活性化
  2. 国民の要望や意見を鋭敏に把握し誠実な対応をする方策
    • 現場の警察官の中にある「民事不介入」に対する誤った考え方の払拭など、住民からの相談への的確な対応
    • 個々警察職員の責任感に裏付けられた職務の執行
    • 地域住民の意見や批判に謙虚に耳を傾けるため警察署評議会(仮称)の設置
  3. (時代の変化に対応する柔軟で強力な警察活動基盤の整備方策
    • 人事・教育制度の改革
    • 組織の不断の見直し、徹底的な合理化と警察体制の強化

第2 情報公開で国民に開かれた警察を

警察行政の透明性を確保し、国民の信頼を回復するためには、警察は情報を秘匿しようとする体質を改め、情報公開に真剣に取り組むべきである。具体的には、別紙1「警察の保有する情報の公開に関するいくつかのガイドライン」のとおり、

  • 警察庁の施策を示す訓令、通達は、不開示情報を含まないものについては発出後速やかにホームページに掲載するなどの措置をとる。
  • 情報公開法第5条第4号の対象として不開示とする情報は、この規定の趣旨にのっとり、手の内を知らせることなどにより、現在又は将来の犯罪の予防、鎮圧又は捜査に支障を及ぼすおそれがあるものなどに限定する。
  • 犯罪捜査等の個別の警察活動に支障を及ぼすおそれがないと認められる旅費及び会議費に関する会計支出文書については、原則として開示する。
  • 懲戒事案の発表について、その範囲及び内容を明確化する。

こととすべきである。

警察庁は、今後、出来る限り早期に、このガイドラインの例を基に細目事項を定め、その情報の公開を進めていくよう要望する。特に警察の予算執行については、新潟での公聴会等を通じ、国民の根深い不信感が明らかになった。予算執行についての情報開示は最大限に徹底されねばならない。

また、警察庁は、情報公開条例上の実施機関となっていない都道府県警察に対しては、実施機関となる方向で検討を進めるよう、また、実施機関となった都道府県警察に対しては、警察庁と同様にガイドラインを策定するよう指導すべきである。

第3 苦情を言いやすい警察に

組織にとっては、末端組織で起こっている問題(苦情や不祥事など)がストレートに中枢に集まることが大切である。これにより、はじめて誤った職務執行や非能率な業務運営を把握することができる。苦情などを末端で処理してしまい、大切な問題点が中枢に集まってこない組織は健全ではない。

したがって、警察職員の職務執行についての国民からの苦情を誠実に受け付けることを制度化し、それを幹部の監督の下に適切に処理すること、また不適切な職務執行が明らかになった場合は監察制度によりこれを確実に是正していくことが大切である。

このため、警察・公安委員会に対する文書による苦情申出については、公安委員会に集約するシステムを確立し、その処理結果を文書で通知(回答)する制度を創設すべきである(別紙2参照)。なお、文書による苦情に限ることとしたのは、このような義務を課すには申出についての意思と内容の明確性が必要であることなどを考慮したものである。苦情申出の意思と内容が明確であるが文書によらないことに理由がある場合には、口頭での苦情申出であっても、警察署の窓口において警察職員が文書作成を援助するような制度の導入を検討すべきことは言うまでもない。

また、文書によらない苦情申出のほとんどは市民が日常に接している警察署になされるであろうが、このような苦情申出についても、警察本部長に集約の上適正に処理し、公安委員会に報告すべきである。警察本部にも、これを直接受け付ける窓口(苦情担当課)を置くとともに、苦情の処理状況を管理できる体制を整備すべきである。

これらにより、後述する困りごと相談(仮称)の充実強化、「民事不介入」についての誤った認識の払拭、職務執行における責任の明確化等の対策と併せて、国民の切実な要望に対し、誠実な対応をとることが期待できることとなる。