第7から第9(警察刷新に関する緊急提言)

第7 警察職員の責任の自覚を

社会の安全を支える警察活動には、なににも増して国民の信頼が欠かせない。警察職員は「国民の生命、身体及び財産の保護」という職務を改めて胸に刻み、安全を願う切実な期待にこたえていかなければならない。そのためには、一人ひとりが責任感を抱いて仕事に取り組む必要があり、この際、警察活動における「匿名性」はできるだけ排除し、職責への個々人の自覚を促す方策を取りたい。ここから生まれる緊張感は、住民の要望に鋭く反応する感覚も育てていくだろう。

しかし、一方で警察職員が取締りの妨害、捜査の牽制などの意図を持った集団や個人から攻撃や嫌がらせの対象になることについて配慮が必要である。

以上を踏まえ、窓口を担当する職員と、その責任者は、名札を着けるべきであり、また、日常的に住民と接する制服警察官は、職務執行に当たって著しい支障がある場合を除き、識別章を着けるべきである。また、交番勤務や防犯活動に携わる警察官が、地域住民に氏名や顔を覚えてもらうための名刺などを積極的に活用するとともに、警察官は警察手帳を示す際には、氏名や階級などが記載されたページを見せるよう徹底すべきである。

さらに、警察本部長及び警察署長は、任地の最高責任者であり、管内に根を下ろし、地域や部下職員との一体感を保つようにすべきである。そのためにも、在任期間が短期にならないよう配意すべきであり、また、特別の事情があるときは別として、家族ともども管内に生活の本拠を置くようにすべきである。

第8 住民の意見を警察行政に

警察は、犯罪予防、関係機関との連携、犯罪被害者支援方策等に関して、住民の生の声を十分に理解しなければならず、また、その活動は住民により支持、協力がなされねばならない。

そのため、概ね警察署ごとに、保護司会、弁護士会、自治体、学校、町内会、NPO、女性団体、被害者団体等の関係者などの地域における有識者からなる警察署評議会(仮称)を設置し、警察と住民間で共通の問題意識を持ち、警察が住民の声に基づいて行動するような仕組みが確立されねばならない。

(注)英国においては、1980年代初頭以降、人種問題を背景として頻発した騒擾事件への反省から、少数民族や社会的弱者を含む地域住民の多様な声を直接吸い上げるため、「警察と地域の協議会(PCCG:Police/Community Consultative Group)」が設けられた。

第9 時代の変化に対応する警察を目指して

1 人事・教育制度の改革

警察の組織においては「人」こそが最大の資源である。優秀な人材を採用し、その能力を高めるとともに、信賞必罰により高い士気を保持することが大変に重要である。このような観点から、警察における人事や教育がいかにあるべきかについて討議した結果、別紙4「人事・教育制度の改革について」を取りまとめた。

まず、キャリア警察官に最も求めたいものは、霞が関にとどまらず都道府県警察の第一線現場も自らの働きの場であるという認識であり、「ノブレス・オブリージュ(高い地位には義務が伴う)」の考え方に基づく使命感の自覚である。

また、入庁後の約10年間は、将来必要とされる知識を習得し経験を積む上で大変に貴重な期間であるため、他省庁の1種採用者との処遇の均衡に配意しつつも、警視に昇任するまでの期間を現在の2倍程度に延ばすべきである。被疑者の取調べなどの捜査実務や住民と直接に接する交番での勤務経験などを充実させるとともに、海外留学の機会も与えるようにすべきである。

さらに、早期から能力主義に基づく人事運用を行うことで組織に公平感と緊張感を生み出す必要があり、警察本部長への一律登用の排除などの選別を適切に行うとともに、できるだけ早い段階から適切な教育を受けさせたうえいわゆる推薦者(都道府県警察採用の優秀な警察官で、当該都道府県警察の推薦に基づき警部等の階級で警察庁に中途採用されたもの)の警察本部長への登用などを積極的に進めるべきである。

一方、都道府県警察採用の警察官の人事・教育については、警察が精強な執行力を確保できるか否かは現場の中核である警部補の能力いかんにかかっていることから、その適切な教育、配置、運用を進めることが必要である。

また、各級警察幹部の昇任時教育期間を延長すること、国民に奉仕するとの自覚の向上に努めること、専門能力を備えた者や女性警察官の積極的採用を図ることなどが重要であると考える。

2 組織の不断の見直し、徹底的な合理化と警察体制の強化

警察は、現在の定員を最大限に機能させるべく、職員の資質の向上、業務処理方法の見直し、装備資器材の近代化に加え、現場でない管理部門から第一線への人員の配置転換等を更に進めるなど、組織の不断の見直しと徹底的な合理化を推進すべきである。当面、防犯活動など国民の日常生活、地域に密着した警察活動や複雑、多様化する犯罪に立ち向かい、これを解決する警察活動に重点を置くべきであり、業務量の減少した分野の人員・予算等をシフトさせるべきである。

しかし、労働時間短縮の一方で増大する国民からの要望やその質的変化に対応するためには、もはや内部努力のみでは限界である。我が国の警察官一人当たりの負担人口は、全国平均で556人であるが、これは、欧米諸国の警察官の負担人口が概ね300~400人であることと比較すると、著しく高いものになっている(我が国の警察官数は政令で定められている定員、欧米諸国の警察官数はICPO経由の資料による。)。政府は、犯罪等の危害から国民を守ることが国の最も基本的な責務であることを十分に認識した上で、警察がサイバーテロ(ハイテク犯罪)、国際組織犯罪、ストーカー事案、困りごと相談(仮称)への対応などの新たな時代の要請に的確にこたえ得るように、その体制を増強すべきである。

また、大阪公聴会では「最近の交番は鍵がかかっていたり、戸は開いていても誰もいない場合が多い。これでは何のために交番があるのかわからず、反感がつのる。交番の活性化が必要。」と指摘されたところであり、住民から要望の強いパトロールの強化や空き交番 の解消など、その機能が十分に発揮されるよう努めるべきである。このため、徹底的な合理化が進められることを前提に、国民のための警察活動を強化するため、当面、警察官一人当たりの負担人口が500人となる程度まで地方警察官の増員を行う必要がある。

米国のニューヨーク市では、治安の回復を公約のひとつに掲げたジュリアーニ市長が在任中に警察官の数を約1万人増員した。もちろん、増員効果だけによるものではないが、殺人、強盗、傷害、窃盗の件数は1993年から1997年の4年間でほぼ半分以下に激減した。このことは、「安全はただでは買えない」ことの具体例として示唆に富むものである。財政は、国家、地方とも非常に厳しい状況にあることは言うまでもないが、安全確保のための支出には特段の配慮が求められることを強調したい。

さらに、サイバーテロや国際組織犯罪などに的確に対応するためには、政府全体としての方針・政策の策定、警察の保有する人的・物的リソースや技術が最大限に機能するような組織の構築、リエゾン・オフィサーの拡充を始めとする外国治安機関との協力関係の強化、新たな法制度・仕組みの整備などを図ることも不可欠である。このほか、サイバーテロに対抗するための官と民の協調をG8以外の国も含め国内外に広げていくことや通訳体制の整備が緊急の課題となっており、警察の取組みの強化を特に求めたい。