定例委員会の開催状況

 

 

第1 日 時 平成28年7月21日(木)

午前10時00分 〜 午前11時25分

 

 

第2 出席者 長谷川、奥野、川本、北島、木村各委員

金長官、坂口次長、栗生官房長、種谷生活安全局長、

三浦刑事局長、井上交通局長、沖田警備局長、川邉情報通信局長

古谷首席監察官

 

 

第3 議事の概要

 

1 議題事項

(1)人事案件について

官房長から、8月10日付け等の警察庁長官及び地方警務官42名の人事案件、地方警務官に係る倫理監督官の指名並びに警察庁長官の任免に伴う承認依頼等の手続について説明があり、原案どおり決定した。

 

(2)国外において不慮の犯罪被害を受けた被害者等に対する特別給付金の支給決定について

官房長から、国外において不慮の犯罪被害を受けた被害者等に対する特別給付金の支給について説明があり、原案どおり決定した。

 

(3)犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第15条第11号の規定に基づき、国又は地域を指定する件の一部を改正する件について

刑事局長から、特定事業者が法人との間で特定取引を行う際に義務付けられている本人確認事項の一部を不要とすることができる国又は地域にインドを追加することを内容とする、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第15条第11号の規定に基づき、国又は地域を指定する件」の一部改正について説明があり、原案どおり決定した。

 

(4)国家公安委員会への意見・要望文書等の措置について

国家公安委員会宛ての電子メール、書簡等について閲覧し、回答を要するか否かの判断を行った。回答を要するものについては、その内容を了承した。

 

2 報告事項

(1)平成28年上半期の懲戒処分者数について

首席監察官から、平成28年上半期の懲戒処分者数について報告があった。

北島委員より、「懲戒処分者数の漸減傾向が続いていることを評価したい。区分別では、飲酒運転等の交通事故・違反がかなり減っていることに留意しておきたい。一方、免職・停職の重い処分が増加していることに懸念を表しておきたい。また、幹部の非違事案はどのような傾向となっているか」旨の発言があり、首席監察官から、「幹部は、数が増えているということではないが、パワハラや置き引き等幹部としてあるまじき事案で処分をされている」旨の説明があった。

木村委員より、「パワハラ事案に対して、警察庁ではどのように取り組んでいるのか」旨の発言があり、首席監察官から、「行き過ぎた指導に対して、それを止める、介入することに逡巡するといった傾向が都道府県警察にみられると思う。ハラスメントに対して、あってはいけないという意識改革を組織全体に徹底をさせることによって、兆候の段階から把握し、指導する立場の者にも指導していくということを、今後の指導の大きな柱としていきたい」旨、次長から、「警察庁では、定期的に全職員が行っているストレスチェックの活用等により把握に努めている。各都道府県警察でもこの活用を促進するとともに、パワハラ等について部下から情報をうまく吸い上げる仕組みを構築するなど様々な方法を組み合わせながら、具体的な方法を検討してまいりたい」旨の説明があり、木村委員より、「具体的に行動を起こさないとなかなか意識は改善されない。根本は、相互の信頼関係である。ストレスチェックの活用等も含め、具体的な対策を講じてほしい」旨の発言があった。

川本委員より、「過度に厳しい指導を双方向のフレキシブルなコミュニケーション的な指導に変えていくために、どのような幹部研修を実施しているのか」旨の発言があり、官房長から、「民間の方を招いて研修会を行っている。また、警察庁では、大きな異動の際に、一定の幹部クラスを対象に今の時代に求められる働き方改革やワークライフバランス、これらを実現する管理者としての取り組み方について研修を行っている」旨の説明があり、木村委員より、「研修は1日行って終わりとするのではなく、半年に1回でもよいので、定期的に繰り返して行うことが重要である」旨の発言があった。

長谷川委員より、「自殺者を生むようなパワハラを行う者は、普通に研修を行っても、自分がパワハラをしているとは思わない。そのような者には、部下からの意見やこれまでの部署でどうだったかなどを総合的に検討し、上司が個別に指導しないと自分の問題を認識できない」旨の発言があった。

北島委員より、「警視庁管内の警察署で、パワハラによると思われる自殺者が相次いだ事案は、パワハラが原因ではなかったのか」旨の発言があり、首席監察官から、「人格否定にわたるような発言や本人を追い詰めるような状況までは認められず、パワハラとの認定にまでは至らなかった」旨の説明があり、木村委員より、「パワハラをしないような雰囲気を作り上げるのが一番大事だと思う」旨の発言があった。

 

(2)平成28年度第1四半期監察の実施状況について

首席監察官から、平成28年度第1四半期監察の実施状況について報告があった。

北島委員より、「今後、サイバーセキュリティ関連の業務は一層増加していくものと考えられるので、今回、監察の実施項目としたことは非常にタイムリーであった。第4四半期には、今回行うことができなかった都道府県警察を対象とするとのことであり、しっかりと監察してほしい」旨の発言があった。

 

(3)平成28年上半期における刑法犯認知・検挙状況について【暫定値】

生活安全局長から、平成28年上半期における刑法犯認知・検挙状況について報告があった。

北島委員より、「認知件数や人口千人当たりの認知件数が戦後最少の昨年を下回っているペースである点を評価したい。また、重要犯罪の検挙率が上昇傾向を継続している点についても評価したい」旨、奥野委員より、「昨年、刑法犯認知件数は戦後最少となり、上半期も減少傾向にあることは評価できるが、罪種別で見ると、贈収賄等いわゆる汚職事件が認知、検挙とも件数が大きく落ち込み、この傾向は近年変わらない。公共事業の減少、接待文化の見直し等社会状況の変化にも起因するのだろうが、事件が少ないと、経験不足による捜査員の捜査技能の衰退を懸念する。検察でも同様の問題が指摘されているようだが、警察も態勢の立て直し、捜査員の技能の継承、教育、訓練の見直し等対策を強化するべきではないか」旨の発言があり、刑事局長から、「その点は、実は私どもも懸念しているところではある。特に、贈収賄事件については、ほぼ認知イコール検挙のようなところはあるが、長期的に見ても、大きく数字を落としているという状況にある。いろいろな原因が考えられるが、社会的な実態として談合等に対する世間の目が厳しくなってきている反面、情報がなかなか取り切れていないという問題はあろうかと思う。捜査の端緒となる情報の入手がなかなか難しい。その点について、一朝一夕にはいかないが、十分問題意識を持っているところであり、ベテランからの技能の伝承等については、今後も力を入れていきたい」旨、長官から、「重要犯罪の検挙率の上昇については、科学捜査や捜査支援分析の強化等の成果が少しずつ表れているのではないか。反面、重要窃盗犯の検挙率が重要犯罪ほどには上がっていないことが課題である」旨、刑事局長から、「重要窃盗犯の検挙率がなかなか伸びていかないのは、取調べによって被疑者から余罪の供述を引き出すことが難しくなってきているということが一番大きい。取調べをめぐる環境が厳しくなっていることが実際の数字にも表れてきているという側面はある」旨の説明があり、奥野委員より、「防犯カメラやDNA捜査等を活用した捜査技術の進歩も認知件数の減少、検挙件数の増加に寄与していると思うが、問題は、科学的技術・手法を駆使しにくい知能犯事件等の分野である。人による情報収集等の捜査技術を更に高めていくしかないと思う」旨の発言があり、長官から、「知能犯事件については、刑事訴訟法等が改正されたことによる合意制度等により犯罪組織の上位者に関する情報が得られやすくなるなどの効果も期待できると思う」旨の説明があった。

川本委員より、「取調べをめぐる環境が厳しくなっているとの説明だが、世の中が大きく変わっているわけなので、単に「厳しくなった」と捉えず、世の中の変化にいかに対応するかという考えを持つべきではないか」旨、長谷川委員より、「ヨーロッパでは、被疑者は不利益なことを自供するわけはないということを前提に制度が構築されている。日本も、昔のような家族的社会から欧米のような社会に変わってきていることから、こちら側も対応を変えていく必要がある」旨、木村委員より、「警察だけではなく、どの世界でも同じで、今までのやり方がそのまま通じるわけではない。警察も、世の中の変化に合わせて対応すること必要である」旨の発言があり、刑事局長から、「例えば、被疑者の黙秘が増えているなど、従来と比較して取調べが難しくなっている面がある。また、今後、裁判員裁判対象事件について録音・録画が制度化されるが、それに伴う心理的負担等により被疑者の供述が得られにくくなるという側面もあるところ、そうした意味でも取調べというもの全体が難しくなっているということは否定できない。今後の取調べの在り方を考えるべき時期に来ていることは十分に認識している」旨、長官から、「日本の捜査構造の中で、以前は取調べが機能していたが、近年、そうではなくなってきた。したがって、取調べ以外の手法についてもしっかりと考えなければいけない」旨の説明があった。

 

(4)皇太子殿下の平成28年度全国高等学校総合体育大会御臨場等に伴う警衛警備について

警備局長から、7月27日から29日までの間、平成28年度全国高等学校総合体育大会御臨場等のため、皇太子殿下が岡山県へ行啓になる予定であり、これに伴い、所要の警衛警備を実施する旨の報告があった。

 

3 その他

(1)刑事局長から、新たな刑事司法制度に対応した警察捜査について報告があった。

木村委員より、「供述証拠ばかりを重視することなく、供述証拠と客観証拠と両面の収集を図り、それらを突き合わせながら検討し、更に必要な証拠を収集していくというように、供述証拠と客観証拠の両方をうまく絡ませながら捜査を進めていくという流れがよい。また、新たに導入される司法取引は、海外では活用されているが、日本ではどうか」旨の発言があり、刑事局長から、「御指摘のとおりと考える。過去の無罪あるいは再審事件の中には、供述証拠と客観証拠との整合性が十分に検討されていたとは言えないものもあったところ、そうした点も踏まえ、適正捜査の更なる徹底を図ってまいりたい。」旨、長官から、「米国で活用されている司法取引は、被疑者が一定の犯罪を認めるかわりに他の余罪については訴追しないなどとするいわゆる自己負罪型のものである。これは、犯罪の発生が多いことを背景に捜査の効率化を優先させたものであるが、法制審議会特別部会での議論において、事案の解明などを困難にするとの意見も強かったことから、今回は導入が見送られたものである。今般、日本に導入されるものは、組織犯罪等において被疑者が上位の共犯被疑者について供述した場合、供述した被疑者の求刑を軽くするなどとする捜査協力型のものであり、取調べによる事案解明の限界を認識した上での新たな制度の導入である」旨の説明があった。

川本委員より、「ほとんどの被疑者が黙秘するようになるのが常識になる可能性もある。そのときのために、取調べを必要としない捜査の在り方を今のうちから考えるべきではないか。検挙水準が落ちてからでは遅いのではないか」旨の発言があり、刑事局長から、「諸外国においては取調べの果たす役割が低く、時間や回数が極めて少ないものと承知しているが、我が国における取調べ及びそれを通じて得られる供述の持つ意義・役割は大きく、それは今後も変わらないと考える。警察としては、引き続き可能な限り、供述証拠の収集にも取り組んでまいりたい」旨、次長から、「公判においては、客観証拠のみで立証せざるを得ない事件もあるが、何らかの供述証拠がある場合と無い場合を比較すると、立証に求められる客観証拠のレベルが全く違う。そのような裁判実務を踏まえると、警察としてはできるだけ供述証拠を収集するための捜査をせざるを得ない。現行の捜査手法で収集できる程度の客観証拠だけで立証が可能となるように裁判実務が確立されれば別だが、現行の裁判実務のまま、捜査側だけが供述証拠を必要としない捜査方針に転換することはできない」旨の説明があった。

川本委員より、「捜査には「犯行の全容解明が期待されている」という説明があったが、何を根拠としてそのように言えるのか」旨の発言があり、刑事局長から、「刑事訴訟法1条、同法の目的として「事案の真相の解明」と明記されている。つまり、法律上、適正な手続と事案の真相の解明の双方を満たすことが求められているものと考える」旨の説明があり、長谷川委員より、「その点は、欧米と異なっている。欧米では、犯行の全容は分からないと考えている」旨の発言があり、長官から、「刑事法は、欧米と日本ではかなり異なっている。英米では、凶器を使用して人を死に至らしめたら、傷害致死でも殺人でも一定の懲役刑が課せられる実態があり、英国では、立証責任の一部を被告側に転換している。一方、日本では、一般に客観証拠のみでは証明が困難な、動機は何か、計画性はあったかなどの内心面の立証が無いと、適正な量刑に支障が生じることもある。このように、日本の刑事法体系が供述証拠を収集する捜査も必要としている部分はある」旨の説明があった。

奥野委員より、「欧米と日本との犯罪や被害者に対する認識の違いが、そのような刑事法の違いに表れているのではないかと思う。ただ、供述証拠収集の捜査を大きく変えてしまうと、これまで、「日本の警察は世界一」と言われていたレベルが維持できるかという問題は懸念される」旨の発言があり、長官から、「これからは、供述証拠だけではなく、客観証拠の収集の捜査をいかに充実させるかという点が非常に大きな意味を持っている。結局は、バランスの問題であり、現行の日本の刑事司法制度を前提とすると取調べを放棄することはできない。一方、今回、刑事訴訟法等が改正され、客観証拠の収集方法が充実したが、更に進んでいる欧米の捜査手法を研究して日本の捜査にも取り入れてくることで、検挙水準の向上につなげることも可能だと思われる」旨の説明があった。

北島委員より、「先日の全国本部長会議において、長官から、取調べへの過度な依存を改めざるを得ない旨の説明があった。その点は必要であると思う一方、日本の制度を考えると取調べは必要であり、ただし過度には依存しないというのが重要であると私も認識している」旨の発言があり、官房長から、「この「取調べへの依存」にはレベルがあって、いきなり取調べをして客観証拠との整合性も検討せず捜査を進めることは当然あってはならないが、一方、法律が取調べによる証拠収集を求めている部分もある。犯罪の主観的要件など法律に求められている限りは取調べが必要であり、取調べをしない捜査に転換するならば、法律の見直しが必要になるのではないか」旨の説明があった。